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まだ暑さが少ない上りたての太陽の下、僕は畑で草を抜いていた。彼女の小屋の裏にあるこの小さな畑は、ホタルが日ごろから「うちの畑」と呼んでいるものだが、正直僕にとっては、どちらかというと食べられる植物を中心に形成された草むらに見えた。当然一般的な草むらを形成している植物もその中には何割か含まれており、野菜が順調に育っているうちは見た目が草むらでも文句はなかったが、最近は専らその雑草と呼ばれる植物の方にばかり栄養が行っているようだった。
「あなた一人増えたら、野菜も倍必要なんだから、その分草を抜いたほうがいいんじゃない?」と昨日ホタルはまるで、これが僕一人の問題であるかのように言った。
確かに、それは僕の問題だった。ここに住まわせてもらっているのは僕であるし、僕の食料は僕で世話するべきでもある。しかし、僕はどうもひとりで草むしりをやるのが心細く、ここは君の畑でもある、という旨を強調しホタルも草むしりに引っ張って来たのだ。
僕は赤い土の上にぺたんとしりもちをついて、手が届く範囲の雑草を順序も何も考えず、手当たり次第に抜いていた。木の腰掛を持参しているホタルは、僕から少し離れたところに日傘をさして腰をかけ、僕を見守りながら永遠と喋っていた。どうも今日は土を触るつもりはないようだ。日曜日の朝らしく、ご機嫌そうな顔をしている。それを見ると心が温かくなる。僕としても、別にホタルが草むしりを手伝わなくても文句はなかった。僕は単に一人でやるのが心細かっただけなのだ。
僕が手の届く範囲の草を抜き終えて少し動くと、彼女も「よっこらしょ」と尻を上げて、腰かけと一緒に移動してくる。もちろんタイ人なのでよっこらしょと言ったわけではないけれど、そのような声を出すのだ。
日傘の陰で、彼女の顔は一層白く見えた。彼女が目の前に生えているトマトを、ふと思いつきでちぎり、ほおばる。彼女の赤い唇に、トマト赤い艶が触れたとき、炎だな、と僕は思った。
「どうして僕は日本ではなくタイにいるの?」
彼女は簡潔に答えた。
「あなたは誰でもない必要があるのよ。ここであなたが誰かってのを知っているのは、私の他にいないんだから」
昼前に僕は草むしりを諦め、簡単にお昼を済ませた。僕たちは近所の少しだけ標高の高くなっている場所、とはいっても十メートルかそこらなのだが、その削りこまれた丘のような場所にある畑までモーターサイクルで出向き、そこの四阿で景色を見たり、昼寝をしたりして過ごした。夕方にその畑から帰るとき、ご近所がツチグリを分けてくれた。菌類の一種、要はキノコの仲間というわけだが、その見たことのない地中に生えるやつをナイロン袋に入れて僕らは帰った。
僕とホタルは一緒にツチグリを使い夕食を作った。裏の畑で穫れた野菜もたくさん使い、二つ料理を作って、もち米をつまみながら食べる。水不足は深刻だったが、身体の細い僕たちのような若者を養うに畑の野菜はなんとか十分だった。