(2019/06/04)
アメちゃんは言う。
「この世界に朝ほど鬱陶しいものってないと思う。でも、私たちってそういうの全部越えていかないといかないじゃない。だから、毎日、毎日毎日、目が覚めるとうんざりする。死んでしまおうかって思うくらいに。でも、あなたが来たから今日からは上手く耐えられる気がするよね」
僕は何も言わない。彼女の足取りは軽かったが、嬉しいのか悲しいのか分からない。彼女は僕に言ったわけじゃなかったかもしれない。ただ、誰かに聞いてもらいたかったんだろう。僕はこの日記をいつか誰かに読んでもらいたいと思って書いている。日記を書き始めてもう八年になる。
その日記に彼女が初めて登場したのは去年の春だった。今、僕は二十二歳で、彼女は多分まだ十九歳だ。春は美しい季節だけれど、時々それは朝のように僕をうんざりさせる。どうしてかは分からない。
「帰りたいんでしょ? でもダメだよ。私たち一年ぶりに会ったんだから、何かすぐに素敵な思い出を作らなきゃいけないと思う」
僕は大学を卒業して日本に帰ってきた。一年ぶりに好きな人に会った。この人だ。
「本当に疲れてるんだぜ? 夜行バスってアメちゃんも知ってるだろ」
「でも、このまま家に帰って夕方までぐーすか寝られるのはごめんだな。しばらく付き合って。私がどこか良いところへあなたを連れてってあげる」
そうだ。僕は彼女に連れてってもらいたがっている。それは確かだ。僕は彼女にとびきり素敵な場所に連れていってもらいたかったんだ。でも、どこへ?
甘いかもしれないけれど、彼女が何かを変えてくれる気がする。あと、僕は楽しいと思える時は楽しいと思い続けたい。だからついていく。
彼女に会ってからの日々が、つまり今日から始まる日々が決して後ろ向きでないと、そう信じて僕は昨日までの日記を置いてきた。いつか、完璧な僕が、乱されない心でそれを手に取ることができるように。