(2019/06/04)
幻の少女は青い夜明け前の空で僕を待っていた。夜行バスを降りると、僕は荷物を受け取るより先に彼女を抱きしめた。相変わらずやせ細っているけれど、背が高くなっている。唇の位置がわからないから僕はキスをしなかった。さっと腕を離し荷物を受け取りに行く。歩道を歩いて先々進んで行く彼女の背中にはリュックサック、僕の荷物だ。僕の背中にもリュックサック。これも僕の荷物だ。僕が背負っている方は彼女のよりも二倍くらい大きくて重い。アメちゃんが背負っているのだって軽くはないはずだけれど、彼女は軽い足取りでスキップする。時々ゆっくり歩く僕の方を振り向いて笑う。荷物は重いが僕の心は軽い、幸せだ。
「知らない番号だったけど、すぐにイチロウ君だってわかった。長いこと待ってたから、嬉しかった。けどさ、出てみたら成田にいるんだから笑っちゃった。よっぽど東京まで迎えに行こうと思った。居ても立っても居られないし、早く会いたかったんだもの」
朝の雨が心を洗っていく。空気は清く透き通っている。僕は今日から京都で暮らす。