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-CANDY- Love Will Tear Us Apart 2章

(2019/06/03)

 久しぶりの日本だ。久しぶりの日本の季節は冷たい。雨はまだ降っていない。彼女に会いに行こう。これからは、本当の意味で僕は自由だ。何でも好きなことをしよう。

公衆電話からアメちゃんに電話をかける。

「今、成田空港なんだ。イチロウだよ、やっと会える。どこに住んでるの?」

 彼女は少し慌てたようだった。会うのはほとんど一年ぶりなんだから、それに電話をするのも半年ぶりくらいだ。

「イチロウ君、久しぶり。成田にいるの?言っといてよね。私、今京都に住んでるんだけど」

 バスで新宿まで出て、京都行きの長距離バスを予約する。夜発、早朝着の便だ。結局、今日中には会えない。日本に帰ったらまず何を食べるか、僕は美味しいサンドイッチを食べたかった。卵のやつを。ピリッと辛いマスタードを欲している。僕の住んでたバンコクには唐辛子ばかりがあった、マスタードが恋しかった。

 サンドイッチを食べると、他にすることもなくて、結局美術館に行き、四、五時間ずっと絵を眺めていた。ドービニーという画家の展覧会だった。僕はその画家を十代に入りすぐから愛していた。帰ってきた日に、その場所で、たまたま国内初の展覧会があるなんて、運命みたいだった。ドービニーは森と農家の絵ばかり描いていたフランス人だ。夕日がリアルなんだ。写実的だけれど筆致がファンタジック。まるで理想の世界だろう。もっと良いのは彼が水面をよく描くから、しょっちゅう夕日が浮かんでくる。人間はずっと水面に浮かぶ赤い太陽を見ているべきだと僕は思う。

 京都に着いたら犬の様に彼女を愛し、イルカの様にキスをしよう、そして雲の様に抱きしめるんだ。長距離バスは嫌いだが、一秒でも早く彼女に早く会いたい。