眩しい太陽は垂直に水面に落ち着いて、魔怪は鰭をバタつかせる、閉じられない出目をぐるぐると回して――ブーゲンビレアは太陽を大きく吸い歌った、そして戸惑う魔怪――三色に輝く美しい鮒を見下ろしかわいがるのだ。靴の匂いは早く焦げてしまえ、と魔怪は叫んだ――苔の中にも太陽は宿り小さな空気の粒がきらきらに水を上がっていく、空に帰す泡粒にくすぐられると魔怪は機嫌よく踊り始める。黙って南の太陽へ歩いていく、短命な子供の池のほとりに立ち、テッポウウオを見下ろす、鉢を近づけてやるとガラスの曲面から彼らはじっと魚を見る、テッポウウオは何も言わず僕らを視界に入れたまま止まっていたが、気がつくと慌てて逃げ去った。驚いたか寂しかったか魔怪は僕を見上げ口をパクつかせる。魔怪は静かに沈んだ。
いつもと変わらぬ散歩道であったが、抱える道連れが僕を明るく照らした。彼女の花びらにある葉脈はセクシーに流れる水を透かせていた、こんなに暖かい場所にいたのね、と。水中に紅色の反射が起こり、魔怪のキャリコ模様に重なって――歩くと水面に波が起こり車が通るとそれは立ち上がる――二人は為す術もなく水の躰に委ねて動いた。合歓木の並木をゆっくり歩くと、彼らの垂らした長い豆の実が光を増やし一歩ごとに我々の喜びは増える――君はいつもこんなに良い場所を歩いているのか？いいや、こんなに良いのは今日だからだろう。こんなたくさんの魚がいるところをいつも歩いているのに寂しがって泣いてばかりなのは怠けだな。白線を渡りシマウマのハリボテが五十も百も並べられた祠を通りすぎ、壊れかけた木の橋を渡ると花卉学科のグリーンハウス群があり、そして鉄筋コンクリートの女子寮、ふと授業を受けているはずのクラスメイトを思い出しながら長い水路に沿って行った――花は見上げて私もあちらが良かった、とつぶやいた。女子寮でも男子寮でも同じことだろう。いいえ、私あんな男臭いところにいるのが耐えきれないだけよ、あなたは良いのよ、でもしんどいわ、男ばっかりの寝起きしてる場所で息なんかしてるのは。