皆すぐそばにいるにも関わらず僕だけがひとり遠くにいるようだった。どれもこれも子供じみた悩みだった――だが僕はまだ大人ではないはずだ。ナマズの年はいくつだ?、老魚は尋ねた。二十五歳だと思う。お前は?――僕は十八だ。そうか、みんな水曜になると映画に行くのだろう。そうだ、皆水曜になると半額なので映画に行く。僕は頷いた。お前は?僕は首を振った。一度は行ってみたけれど、結局は疲れてしまうんだ、人と一緒にいることに慣れていないんだ。日本にいた時からずっとそうだったのか?僕は首を振った。日本では疲れていても我慢できたね、大変な悩みというわけではなかった。けれど今は大変な悩みだ。そうか――大きな魚はそう言い、長い尾を揺らし悠々と泳ぎ去った。
寮に帰ると庭の白い石卓にナマズさんとクラサがおり、タイ式チェスを遊んでいた。ビール瓶の蓋を駒にして遊ぶのだが、これは学内のジジイが四六時中やっているものだった――学内には食堂の人、文具屋の人、職員、清掃員、警備員と様々なジジイが居て彼らは決まって暇そうにしていた。ナマズはモーターサイクルタクシーの運転手らが日向ぼっこしながら熱中しているのを目撃し、クラサにやり方を聞いたらしかった。大学で見かける全ての白い石卓の中央に、青とオレンジのチェッカータイルがはめられている――これらは皆チェスをやるための装飾だった。老人たちは脇に緑の紙幣が束に、これを賭けて遊ぶ、それを真似て遊ぶナマズとクラサを、しばらくは肩越しに眺めていた。ナマズさんは買ったばかりのタイパンツの太ももを叩きながら真剣に熟考した――クラサも同様だった、彼はスモークがかった眼鏡越しに難しい顔、頬っぺたのニキビを掻きながら次の手を待っていた。クラサはいつだって学生服を着ていた、寝る前以外に白いシャツを脱ぐことはなかった――ソムセークは「クラサはそこまで貧乏じゃないくせに貧乏のふりをしたい奴だからいつも制服を着ているし、ボロいアパートに住んでいる」とよく言った――別にクラサのことを悪く言っているわけではないのは僕も分かっている、ただ事実を述べたまでだった。いくら賭けてるのかとナマズさんに尋ねると、クラサは元気に「コンバンワーですね」と日本語で言った――七十バーツや。彼は机の上にある青と緑の紙幣を僕に見せた。奇数かいな。