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オウドムサイの町は暗翳の中に沈んでいる。空と山は手で触れられそうに思えるほど近いが、人はすがすがしさなどはないと言うと思う。僕たちの乗っていたバスがオウドムサイに到着した時はもう、分厚くない雲が均一に空を満たしていた。頭上を覆う灰色の空と、側面をぐるりと囲む黒い山並みは窮屈さを覚えさせるかもしれない、だが僕もホタルもそのように感じなかった。
その町は小さな空港をはずれに置いている。僕たちは町に着いてまず初めにその空港へ歩いた。どこにも飛行機などはなかったが、なんとなく僕たちは自由な気持ちになった。
建物を抜けて滑走路へ行き、ただ広いコンクリートを歩いて進んで行き、横の広さを吸い込んでいた。ホタルも深呼吸をして、また彼女は胸を張り、両手を広げ、天を仰いでいた。空港で見れば曇天も広い。深い深い暗影を秘めた雲は、溶けそうな白い銅の様に輝いて見えた。暗くして尚明るかった。その光る濁りは空から町を飲み込もうとしていた。雲は秒ごとに重みを増し、錯覚ながら空は下へ下へと迫り降りてくる、視界の突き当りを三百六十度にそびえる山が、雲を支え街を守っているだけだった。
僕とホタルは空港の外に出て、初め来た時に感じた暗さを忘れているのを感じた。真新しい町の中心であろうコンクリートロードが逆手にある山へ続く。がらんとひらけたそのまっすぐな道は、短く突き当り、それはきっととてつもなく寂しいに違いないだろうとホタルを覗く。彼女は明るかった。
「見て、軒下でお母さんが織物をしてるわ」
庭で織物をしている若い女性は、正直僕らとそんなにも歳が変わらないように見えた。彼女は柵越しに僕らがじっと見つめているのに気づいてこちらを向いた。にこりと笑った。僕たちも笑顔を返した。