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bum  第1章 haru ..3

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 水面は夜に負け、不可視。窓にあるのは空の象徴である闇だけで、無に垂れる雫が、少しずつ脳を埋めて言う、君は既に生まれているでしょう?と。

 僕の想像の形は夜の広がりの中で実体を持ち、見たいものを見ようとする。それは水面だ。すると、車窓からはみ出した光が水面を照らし、僕の瞳に波が寄せた。水は遠いか、近いか、浅いか、深いか、全く察せず、しかしそこにあることだけが分かる。水に形はある?ただの黒色の塊なのか?判然としない。決めようとしないでおこうと決める。烟草を吸いに立とうとした最後の一目に、湖上に彷徨う木製のボートがちらりと照らされた。誰もいない、小さな木舟は、形を持たない水を転がっていた。無人の記憶だ。

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 オレンジ色のライトが見えていた。それは少し赤みの強い一個の裸電球だ。リザーバーを越えるとそこはもうイサーンだろう。ここは…?

 その下に円く集まって眠らない牛が耳を傾けていた。