表紙へ

サンシャワーシンドローム 20

WWTTTM?

 雨が上がるとクラサとバスに乗り、夜市に出向いては酒を飲んだ。川に調査に出ていたナマズが連絡を寄越し、バーの場所を教える。そうするうちにソムセークも呼ばれて来ることになった。僕らの夜に実体は無かった、各々が別のグラスを片手に別の話をしていた。彼らが関係のない事柄を話し、それに的外れな返しをする様をながめていた。僕はふと雨の中で泣いていたフランス人を思いだし、彼のことを話した。農学部の食堂の外のベンチで酒を片手にうなだれていた男だ。他人の話だ。誰も彼のことを知らなかった。彼を見掛けたのは僕だけだった、泣いているからには彼にだって生活があるのだ。僕の見たその瞬間にポッと現れ突然泣き始めたのではなく、平等に年を重ね、二十四時間ずつの生活を繰り返し、その累積により涙を流し、酒に揉まれて溺れているのだ。彼は生きているのに僕らはどうしてそれを知ることができないで、それに話しかけることもできない。彼はずっと一人で泣いている。怒鳴ったつもりではなかったが、ナマズの反応からして僕の声は大きかったらしい。飲み過ぎていたつもりはなかった。誰に対してというわけでもない悲しみや怒りに飲み込まれるのは馬鹿だ、とナマズは言った。判らなかった。どうして自分がここにいるのかが、どこへ向かおうとしているのか、これからも本当に人生は続いていくのか、何も判らなかった。クラサは僕のコップに氷をたっぷり落とし、それからビールを注いだ。酒を飲め、そうするとお前は誰かに溶けあう、まずは覚えるんだ、人と一緒になる感覚を、そして目が覚めるとお前だって一人で人と手を繋ぐことができる。一人で人と手を繋ぐ?そうだ、どんな気持ちがするだろう?