池の向こうには郵便局舎とクラブハウスがあった。学内に点在するクラブハウスのうち、そこにあるのは最も古いもので、二階は象保全部、一階はイスラム部、礼拝所の代わりに使われていた。クラブハウスの裏庭には大きな木があり、紅色や黒、ベージュなど色とりどりにヒジャブを付けた女たちが木漏れ日のベンチで間食をとりながら話していた。声は聞こえずとも平和そうな風景に思えた。裾が長く肌を全て覆う衣は、風に揺れ遠く止まっていた。魔怪はぼんやり外を見つめたまま、僕のことなど気にしていなかった。日が暮れる前に散歩でもしようと思い、濡らして困るものを全て部屋に残して、出ていく前に金魚鉢を振り返った。魔怪は暗くなり出す時間が近づくのを知っており、また僕がそれまでに帰らないことにも気付いているらしく、嫌そうにした。僕は窓を閉めてやり、カーテンもかけた。これでいいだろう、と訊いても彼は返事をせずに壁の方を向いていた。