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僕たちは数か月の間、畑で働き、ある時は町へ行って働き、ゆっくり金を貯めた。
彼女が僕と一緒に来たいと言ったのだ。僕は彼女に言った、秋になったら一緒に行こうと。二人で笑いながら、たくさん話しながら、少しずつ金を貯めた。僕と彼女は金をためて一か月旅行しようと言ったのだ。僕が日記を読み返して、最も幸せになるのはこの日々の記録かもしれない。
僕たちの農場での日々、それは想像のできないくらい幸せなものだった。そして、やはり幸せの日々は矢の様に早く過ぎて行った。僕たちは毎日、純粋な平和の中で過ごした。それは二面に離れ離れになった世界を、裏表のある世界を一つの大きな肯定に繋ぎ戻すための日々だった。
彼女は最近、よく初めて会った日のことを話す。彼女はただその時どう思ったかだとか、僕がどうしたのかとかを話していた。そして、一日ごとに、僕の中でぼんやり自分の過去が形になって浮かび上がるのを感じていく。今僕は、曖昧に、かつて自分がどのような人であったのかを把握することが出来た。その人に対し当然僕は主観的な感想を持ちはしなかった。彼、すなわち僕は、生きることに耐えられなかったのだ。彼は死んだのだ、優しすぎるがために。彼は分かり合おうとしない世界と、何かを求めたがる内側の欲求に圧迫され潰れてしまったのだ。
彼の内側の欲求は全てを許すことだったのだ。何もかもを受け入れることが彼の求めた全てだった。だが、彼には不寛容な世界を受け入れるだけの強さがなかったのだ。彼は諦めることができなかった。そして同時に、自分の弱さをどうにかすることもできなかった。彼は諦めて許せないままに生きることを選ぶより、死ぬことによって全てを受け入れようとする意志を持ちながら終わったのだ。
これまで僕はずっと、過去の自分がくだらない心にやられて、過去を切り離したのだとばかり思っていた。しかし、そうではなかったのだ。僕ははっきりと理解した、かつて僕が背負った悩みはあまりにも澄んでいる、そして僕の過去は確かに美しかったのだ、と。
僕はかつての傷ついた自分自身に触れた。その痛みを愛した。重さに疲れた背中を愛した。そして僕は自らの過去を許した。
今の僕には、強さを手に入れることができる可能性があった。彼の諦めたくなかったものを背負えるだけの強さだ。そうであるとすれば、僕は彼を癒すためにもその強さを持ち、記憶を取り戻さねばならないと思う。
僕とホタルの最後の旅について話す。
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十月の末のある夜明け前、僕とホタルは紫色のモーターサイクルに乗って村を抜け出した。僕たちは国境を目指していた。
巨大な川がある。それはタイとラオスの国境をなすとてつもなく大きく、広い川だ。どこへ向かうのかを決めたのはホタルだった。彼女は北へ向かいたいと言った。早朝には川のほとりに着いていた。どうしてそこへ僕を連れていくのかと僕は彼女に尋ねた。彼女はあなたと言えばここだもの、と笑った。