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アポカリプスドリームス 10.

 すっかり深夜になってもバーの明かりはチラついていた。レンズガラスの窓は夜でも点滅する紫いろの明かり歪めていた――時折大通りの車が反射をして部屋に迷い込んだ――今日も誰かがどこかへ行き、うちに帰ろうとしている。夕食を終えた僕らはいつしか、話すことをやめ、絨毯の上に寝転んでいた。うとうとしていた僕は夢を見た――認識に関する夢だ。

 真っ暗な場所に僕はおり、奥の椅子にひとりの象が座っていた。彼はおそらく僕の方を見つめていただろうが、到底焦点が合っているとは思えなかった。象の首から下には人間の体がついており、黄色のポロシャツを着ていた。およそシヴァか誰かの息子のような物体だ。僕が近づくと象は慌てて隠したが、僕は聞いた。波の音を聞いたのだ。僕はおそらくその象の下に彼女の顔があるのだと思い、ジロジロと首元を睨んだ。象は首を傾げ、鼻を振った。鼻が指す方に目をやると、彼女が白い肌を見せながら、うつ伏せに倒れていた。ようやく僕は象が彼女ではないことに気がついた。しかし、なぜこの象がここにいるのか、何を意味しているのか、を理解することができない。いくらでも話しかけることができるはずだった。だが、僕はかの象に手を伸ばす勇気を持たず、彼女の倒れている光景に恐怖していた。象に振り返るとそれはピストルを僕に向けていた。目を覚ますと隣に彼女が眠っており、蝋燭の火は全て消えていたが、依然バーの紫の灯りが点滅していた。外国人旅行者の笑い声も聞こえていた――車通り、フロントライトが部屋を照らす。明らかになった部屋の広さと空虚さに僕はため息をついた。この人は僕の目の前にいる時以外にも、人らしく生きているのだろうか?

 彼女の眠る頬にもフロントライトは突き刺さっていた――彼女が夢を見ているのが僕にはわかった。僕がすぐに眠らずに黙って彼女の顔をにらんでいたのは、そこに涙の乾いたあとがあったからだった。夢のせいで涙を流す女――時折口を開ける、息が漏れても言葉にならなかった。その人の心の中には何かが渦巻いているのだ、しかし僕に話そうとすると何も考えていない人のように笑うだろう?どうして人は泣いてしまうような過去を一人で抱いていようとするのだろうか、彼女はもっと話さなければならないのではないのだろうか?僕は立ち上がった。窓辺に立って通りで白人がビールを飲んでいるであろう場所をにらんだ。レンズのように歪んだガラスからその景色は見えないが誰かが大声で話し、笑っているのがわかった。何かを馬鹿にしているような笑い声だった。窓わきの机には色々なものが散らかっていた。僕は椅子に腰を掛けて僕は彼女が書いた文字をなぞった、タイ語で書かれた僕には読めない言葉が並んでおり、紙は一度握られたような皺がついていた。水槽があった、何も入っていない空っぽの水槽だ。