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アポカリプスドリームス

2018

2018年、僕が初めて書いた小説です。まだ何も知らない透明の人間であること、文章を書くこと、人の手を握ること、空気を肺に入れること、足が地面に溶けあいその下にある過去を知ること、脳天が空と溶けあいこれからやっと本当に生きていくんだということ、などについて。

1.

 眠れないまま夜行バスの窓から景色を眺めていた。窓の縁に頭をもたせかけると、湿った埃のかすかな匂いがする。まだ二十一時かそこらだったが街を抜けた途端に、道路沿……

2.

 昨年の十月のことだ。僕は大学内の水族館で三匹のメコンオオナマズに語りかけていた。涼しい川を思わせる青いペンキ塗りの壁と分厚いアクリルガラスの間で窮屈そうにそ……

3.

 八月にこの国に来た時のことを僕は酒場でナマズが戻るのを待ちながら思い出そうとしていた。高校を卒業したばかりの僕は、ドンムアン空港に降り立ったとき、翅のついた……

4.

 タイに来て初めの一週間で見た一つの変な夢について。僕はバンコクで幅広の道に圧倒されていた、片道四車線もあるような道で空いていると一〇〇キロで車は飛ばす、混ん……

5.

 都会は喧騒に包まれている。往来では、停止している自動車やバイクのエンジン音が響いていた。歩道を行き交う人々も大きな声で話をしている。交通整備の警察官はヘルメ……

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 目を覚ますと、横目に窓が見えた。窓の枠の中を尾を引いて流れていく光が街の灯りだと気づくためには、列車の揺れから思い出す必要があった。おかしな夢を見ていた。紫……

7.

 翌日、僕は早々と一泊で旅行を切り上げて大学のあるところに帰ろうとしていた。どこへ行っても何かが変わるわけではない、ということに気づいたからだ。僕はもうほとん……

8.

 彼女はまず僕の方を見ずに、身の上話を少しだけやった。大学はここから遠くないコンケーンというところであると、地元はコンケーンとここウドンタニーの間であり、農家……

9.

 彼女の部屋は裏通りの小さな雑貨屋の二階だった。彼女の言葉を借りれば「その店にはなんだってある」――冷えたコーラ、ビール、常温のミネラルウォーター、セングソー……

10.

 すっかり深夜になってもバーの明かりはチラついていた。レンズガラスの窓は夜でも点滅する紫いろの明かり歪めていた――時折大通りの車が反射をして部屋に迷い込んだ―……

11.

朝はどこにでもやってきた、曇りではないので今日は早く朝はやってきて、まず彼女を起こした。僕は「ねえ、あの食堂に朝ご飯を食べに行きましょうよ」という彼女の揺さぶ……

12.

 川を目の前にした僕は口を開けて目の下を掻いていた。泥色の大きな水が流れるメコンには一畳ほどの大きさの木の舟、そして笠をかぶって網を引きあげる漁師がひとり。 ……

13.

 どこかで道を間違ってしまって、小さな誤差が連続して今やどうしても元に帰れないところまで来てしまっている――再び走り始めた原付の後ろで僕が考えていたのはそうい……

14.

 彼女は僕にその煙草を手渡し、にっこり笑った。「ねえ、これを吸って」僕は戸惑っていた。「早く吸わないと、火が消えてしまうよ?」僕が煙草を咥えるのを見ると彼女は……

15.

 別れる時に僕はさほど寂しさのようなものを感じなかった。夕日を見た後、紫の原付をとばして、ウドンタニの市街に戻るまで僕も彼女も大して口をきかなかった。ぼんやり……

16.

 僕が大学に戻り最初にやるはめになったのは、授業をさぼっていた間に進んだ授業のノートをコピーして回ることだった。幸いクラスの友人は快く貸してくれたが、書き込み……