クレスト
2019
2019年の1月とかに書いた小説。この小説を書くとき、最初に舞台とした溺れ渓という町の地図を作った。次に地誌と風習と、人々の生活の循環を考えてから、文章を書き始めた。この小説は2020年に書いた『ともに浮かべば肺、満ち!』に次いで、スラスラと書けた小説。今はもう会えない人について、当時一生会えないとつらいなって思いながら書いた。書いているときは、すごくたくさん風が吹いていて、とても楽しかった。本当に書いていて楽しくて、ずっと気分がよかった。
序章
二年間の空白、拉蘇島、彫刻とタコ 白い左腕で彼は銀色の海を撫でるように削る。さざ波の一つ一つに波頭があり、なだらかながら白い飛沫を立てることもある。ま……
一章
七年の終わり、溺れ溪での思い出 彼は名をレ・キンという。町で一番大きな通りが坂になるちょうど手前にあるアパルトマンの二階に住んでいた。丘側の端から二……
二章
七年の始め、溺れ溪での思い出 レ・キンがヤキ・ナリブレトに出会ったのは十四歳の頃だった。秋宵の翠巴川埠頭で一人波の音を聞いていたレ・キンの隣に彼女は静……
終章
新しい七年、溺れ溪再び 二年ぶりに溺れ溪に戻ることになったレ・キンは希望に胸を膨らませていた。しかし同時に、町に戻ることに対する不安は大きかった。そし……
付録
溺れ溪の地理 ドラド・ハユィヒシ、レフノスク・キンセダガルへ。 添付しているのは溺れ溪について書かれた僅かな資料を元に、僕が海風の巣に通いながら……