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ともに浮かべば肺、満ち!

2021

まさに夢についての話。夢は意識の無差別な現れで、そこには昔の亡霊がたくさん歩き回っている。落とし穴だらけの場所を不安を忘れ歩いていけるのも夢の特権だ。時々それは大げさに光ったり、嫌なくらい鮮やかになる。そして最後はブルブルと震えながら醒めていく。

この小説を書いた時、僕の目はすごく冴えていた。どこへでも行けるような気がして、2019年の12月中旬に筆をとり、夜な夜な書き続け1ヶ月もしないうちに完成してしまった。元来書くのがとても遅い人間なので、すごく冴えていた気がする、自分でも驚いた。無論、僕自身はまだどこへも行けていないわけだが、地図は広く開放された。文字が弾んでいて息繼ぎが要らない、自分にとって理想の小説になった。

1章

 シーツはとっくに床に落ちていた。冷たいのを探して合成樹脂のマットレスの上で寝がえりを打つ――象の皮膚のような細かい脈がうつ伏せの手のひらや草臥れた頬に跡をつ……

2章

 昼過ぎにだらだらキャンパスを歩いていると、図書館の脇の白い石机でカイワンのカップルとピートが飯を食っていた。二メートル近いオオトカゲがその様子を木陰から覗い……

3章

常夏の夜は遠くまで刺激的だった。星のない場所だ。俺の他にもたくさんの人がいるのが分かる夜らしい街は、二十四時間周期で現れなんでもない人間を焦らせてしまう。大量……

4章

 少年だったころの自分を思い出すことがある――日本とタイは地続きではない、それらは全て別人の夢を見ているように思いだされる異国の少年時代だった。子供は池へ釣り……

5章

「プラシーワーは山の乙女に噛みつきました。緊張の心にその鼓動が焦りを与えたからです。本当の言葉を知らないで。身体を引き裂くように沈んでゆく。あなたの肉皮を加え……

6章

 恐ろしい夢を見たような気がしたが現実そんなことはないらしく、平和な太陽が真上を転がっている――雨は降らないだろう、空気は乾き、埃が青空を濁している。ゲッドは……

7章

 金曜の夕方、学校のバーマイグア食堂でゲッドと落ち合った時、彼女は青がはっきりする織り方の赤紫チョッブジャケットを着て俺を待っていた。アルミの長テーブルの一角……

8章

 遠い山並みをイスズの白いピックアップは迷わず、また震えず求め続ける――かの女の黒い髪が、青い頬が、大きな瞳が、その遠い向こうにある景色を求めた――見渡す限り……