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1.

 眠れないまま夜行バスの窓から景色を眺めていた。窓の縁に頭をもたせかけると、湿った埃のかすかな匂いがする。まだ二十一時かそこらだったが街を抜けた途端に、道路沿……

2.

 昨年の十月のことだ。僕は大学内の水族館で三匹のメコンオオナマズに語りかけていた。涼しい川を思わせる青いペンキ塗りの壁と分厚いアクリルガラスの間で窮屈そうにそ……

3.

 八月にこの国に来た時のことを僕は酒場でナマズが戻るのを待ちながら思い出そうとしていた。高校を卒業したばかりの僕は、ドンムアン空港に降り立ったとき、翅のついた……

4.

 タイに来て初めの一週間で見た一つの変な夢について。僕はバンコクで幅広の道に圧倒されていた、片道四車線もあるような道で空いていると一〇〇キロで車は飛ばす、混ん……

5.

 都会は喧騒に包まれている。往来では、停止している自動車やバイクのエンジン音が響いていた。歩道を行き交う人々も大きな声で話をしている。交通整備の警察官はヘルメ……

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 目を覚ますと、横目に窓が見えた。窓の枠の中を尾を引いて流れていく光が街の灯りだと気づくためには、列車の揺れから思い出す必要があった。おかしな夢を見ていた。紫……

7.

 翌日、僕は早々と一泊で旅行を切り上げて大学のあるところに帰ろうとしていた。どこへ行っても何かが変わるわけではない、ということに気づいたからだ。僕はもうほとん……

8.

 彼女はまず僕の方を見ずに、身の上話を少しだけやった。大学はここから遠くないコンケーンというところであると、地元はコンケーンとここウドンタニーの間であり、農家……

9.

 彼女の部屋は裏通りの小さな雑貨屋の二階だった。彼女の言葉を借りれば「その店にはなんだってある」――冷えたコーラ、ビール、常温のミネラルウォーター、セングソー……

10.

 すっかり深夜になってもバーの明かりはチラついていた。レンズガラスの窓は夜でも点滅する紫いろの明かり歪めていた――時折大通りの車が反射をして部屋に迷い込んだ―……

11.

朝はどこにでもやってきた、曇りではないので今日は早く朝はやってきて、まず彼女を起こした。僕は「ねえ、あの食堂に朝ご飯を食べに行きましょうよ」という彼女の揺さぶ……

12.

 川を目の前にした僕は口を開けて目の下を掻いていた。泥色の大きな水が流れるメコンには一畳ほどの大きさの木の舟、そして笠をかぶって網を引きあげる漁師がひとり。 ……

13.

 どこかで道を間違ってしまって、小さな誤差が連続して今やどうしても元に帰れないところまで来てしまっている――再び走り始めた原付の後ろで僕が考えていたのはそうい……

14.

 彼女は僕にその煙草を手渡し、にっこり笑った。「ねえ、これを吸って」僕は戸惑っていた。「早く吸わないと、火が消えてしまうよ?」僕が煙草を咥えるのを見ると彼女は……

15.

 別れる時に僕はさほど寂しさのようなものを感じなかった。夕日を見た後、紫の原付をとばして、ウドンタニの市街に戻るまで僕も彼女も大して口をきかなかった。ぼんやり……

16.

 僕が大学に戻り最初にやるはめになったのは、授業をさぼっていた間に進んだ授業のノートをコピーして回ることだった。幸いクラスの友人は快く貸してくれたが、書き込み……

序章

二年間の空白、拉蘇島、彫刻とタコ  白い左腕で彼は銀色の海を撫でるように削る。さざ波の一つ一つに波頭があり、なだらかながら白い飛沫を立てることもある。ま……

一章

七年の終わり、溺れ溪での思い出  彼は名をレ・キンという。町で一番大きな通りが坂になるちょうど手前にあるアパルトマンの二階に住んでいた。丘側の端から二……

二章

七年の始め、溺れ溪での思い出  レ・キンがヤキ・ナリブレトに出会ったのは十四歳の頃だった。秋宵の翠巴川埠頭で一人波の音を聞いていたレ・キンの隣に彼女は静……

終章

新しい七年、溺れ溪再び  二年ぶりに溺れ溪に戻ることになったレ・キンは希望に胸を膨らませていた。しかし同時に、町に戻ることに対する不安は大きかった。そし……

付録

溺れ溪の地理 ドラド・ハユィヒシ、レフノスク・キンセダガルへ。  添付しているのは溺れ溪について書かれた僅かな資料を元に、僕が海風の巣に通いながら……

Murder Mystery 1章

 アメコは便箋を元の通りに畳んだ。そして枕元の明かりを消し、ゆっくりと息を吐いた。彼女は起き上がって、大切な手紙を握ったまま梯子を降りた。彼女の新居は京都北部……

Candy Says 1章

(2019/06/04)  アメちゃんは言う。 「この世界に朝ほど鬱陶しいものってないと思う。でも、私たちってそういうの全部越えていかないといかな……

The Murder Mystery 2章

 二人が再会した日に書かれた一郎の日記を読み終え彼女は汗を拭った。また、そういう日が来ればいい。アメコは暖房を消そうと立ち上がったが、暖房は初めからついていな……

Candy Says 2章

(2019/06/04)  藤が咲いてたんだけれど、と彼女は山の小道を歩いて僕に言った。夜行バスで来たんだ、こんな疲れてる人を誰が山へ連れていくんだよ、……

The Murder Mystery 3章

 白みつつある空を背に彼女は車を飛ばす。トラックが抜かして行く。彼女は窓を開けてセブンスターに火をつける。煙は揺れる間も無く、朝の風がアメコの頬を撫でる。彼女……

Candy Says 3章

(2019/06/15)  せいぜい来週くらいには梅雨も明けるかという頃になって、僕らはようやく重い腰を上げた。十日以上経って彼女と暮らすことにも慣れて……

The Murder Mystery 4章

 朝早く、アメコは岡山県備前市に辿り着いた。三石駅のそばにあるコンビニの駐車場で車の窓を開け、彼女は朝を眺めた。ここは二人の物語が始まった場所だった。 ……

Candy Says 4章

(2019/06/15)  列車に乗り込んだとき、空はほとんど暮れていた。地平の向こうにわずかに焦げた臙脂色の光が湿っているだけだった。アメちゃんは僕に……

The Murder Mystery 5章

 煙突から走って車まで戻って来たアメコはひどく汗をかいていた。彼女は一郎と二人で過ごした夏を思い出しため息をついた。とんでもない人だ、と悪態をついた。一郎は一……

Candy Says 5章

(2019/06/27)  小雨に濡れたアスファルトの道路はすみれ色の夕焼け雲の色を反射させながら、その上に車のランプが線を引く。十分もしたらすみれ色は……

The Murder Mystery 6章

 美しい冒険にドキドキしながら、彼女はシャワーで日光を洗い流した。昼間の記憶はどこにもいかない、新しい夜に浸されインクで塗られた様に存在感を増している。過去の……

Candy Says 6章

(2019/07/15)  快晴。どこまで深く澄んだ青い空、まっすぐな太陽。僕の気分も晴れている。くだらない過去を振り返る隙も無い。アメちゃんはおかしく……

The Murder Mystery 7章

 空が白み始めるより先に彼女はホステルをチェックアウトし、大仙古墳へ歩いた。リュックサックには三石の煙突工場へ侵入したのと同じ装備に加え有刺鉄線を切るためのク……

Candy Says 7章

(2019/09/02)  ゆっくりと季節は秋へと変わって行った。古墳に行ってからは侵入をしばらく控えていた。というのも、侵入より花火に熱中していたから……

The Murder Mystery 8章

 天気は良くもなければ悪くもなかった。空には大きな晴れ間があり大気には日光がいくらか散らばっていたが、分厚い雲の数々はその日が晴れではないことを確かめるよう、……

Candy Says 8章

(2020/05/02) 「目を瞑って寝ようと頑張ってる時に、時々は飛行機の通り過ぎる音が聴こえないと、僕は落ち着かないんだ」 「どうして? 静か……

The Murder Mystery 9章

 大仙古墳は相変わらず静かで、現代文明からはっきりと分断されている。遠くで魚の跳ねる音がする。魚の姿が見えなくても、水面には波紋が広がっている。これは紛れもな……

Atmosphere 0章

(2019/05/18)  僕が再び発作に襲われ自殺を試みたのは、アメコの誕生日からほんの一週間しか経っていない日だった。その日、僕はいくつもミックステ……

 第1章 haru ..1

✧ 分からないものが一つ増えたとする。忘れていることに意識が気づいた時、人はどういう風な気持ちになるだろうか。記憶のない頭は何を見つめるのか、如何にして忘れて……

 第1章 haru ..2

 国鉄駅のサインが見える、暗い階段から空港の外へ移動する、熱気が溜まった踊り場を上がって鉄の扉を押し開けると歩道橋があり、片道四車線を黄色のタクシー、赤いバス……

 第1章 haru ..3

 ✧    水面は夜に負け、不可視。窓にあるのは空の象徴である闇だけで、無に垂れる雫が、少しずつ脳を埋めて言う、君は既に生まれている……

 第1章 haru ..4

 ✧    ゆっくりと空が白み始めていた。霧の向こうから昇り始めている太陽の気配を感じ、向かいに座る青年も目をこすって外の景色を見よ……

 第1章 haru ..5

 僕はうなずいた。言葉少なく、その人は僕をモーターサイクルの後ろへ促した。僕は彼女のこともまた覚えてはいなかった。しかし僕は彼女を知っていた。思い出せないのに……

 第1章 haru ..6

 ✧    彼女の家はウドンタニから南西へ二百キロ強行ったところにあるチャイヤプーム県にあった。おおよそ半日近く、炎天下をモーターサ……

 第1章 haru ..7

✧ 地面に座り込んでカッサバの根を堀り起こりている。のんびりでいいから籠四つ分と頼まれ日の出前には出て来たが、それでも時間がかかる。もうすっかり朝で、早く済ま……

 第1章 haru ..8

 ✧    昼間に農作業を終えて小屋に戻った時なんかは、いつも早い方がハンモックを取り、遅い方が縁台で昼寝をした。双方に平等にアボカ……

 第1章 haru ..9

✧    ある日、早朝に干上がった貯水池を眺め考えていた。人が一生のうちに知ることはこの世界の何割なのだろうかと。この池ではティラピアも飼えな……

 第1章 haru ..10

✧    まだ暑さが少ない上りたての太陽の下、僕は畑で草を抜いていた。彼女の小屋の裏にあるこの小さな畑は、ホタルが日ごろから「うちの畑」と呼ん……

 第2章 natsu ..1

✧    2563年の四月、ソンクランでお祭り騒ぎのチャイヤプーム中心街に、僕とホタルは二人で出かけた。二人でお揃いのカラフルなシャツ、青地に……