bum
2020
this is the story about me knowing after forgetting everything.
You should hear more from your inner howling
and face it if you can.
But if you cannot, run away from it.
第1章 haru ..1
✧ 分からないものが一つ増えたとする。忘れていることに意識が気づいた時、人はどういう風な気持ちになるだろうか。記憶のない頭は何を見つめるのか、如何にして忘れて……
第1章 haru ..2
国鉄駅のサインが見える、暗い階段から空港の外へ移動する、熱気が溜まった踊り場を上がって鉄の扉を押し開けると歩道橋があり、片道四車線を黄色のタクシー、赤いバス……
第1章 haru ..3
✧ 水面は夜に負け、不可視。窓にあるのは空の象徴である闇だけで、無に垂れる雫が、少しずつ脳を埋めて言う、君は既に生まれている……
第1章 haru ..4
✧ ゆっくりと空が白み始めていた。霧の向こうから昇り始めている太陽の気配を感じ、向かいに座る青年も目をこすって外の景色を見よ……
第1章 haru ..5
僕はうなずいた。言葉少なく、その人は僕をモーターサイクルの後ろへ促した。僕は彼女のこともまた覚えてはいなかった。しかし僕は彼女を知っていた。思い出せないのに……
第1章 haru ..6
✧ 彼女の家はウドンタニから南西へ二百キロ強行ったところにあるチャイヤプーム県にあった。おおよそ半日近く、炎天下をモーターサ……
第1章 haru ..7
✧ 地面に座り込んでカッサバの根を堀り起こりている。のんびりでいいから籠四つ分と頼まれ日の出前には出て来たが、それでも時間がかかる。もうすっかり朝で、早く済ま……
第1章 haru ..8
✧ 昼間に農作業を終えて小屋に戻った時なんかは、いつも早い方がハンモックを取り、遅い方が縁台で昼寝をした。双方に平等にアボカ……
第1章 haru ..9
✧ ある日、早朝に干上がった貯水池を眺め考えていた。人が一生のうちに知ることはこの世界の何割なのだろうかと。この池ではティラピアも飼えな……
第1章 haru ..10
✧ まだ暑さが少ない上りたての太陽の下、僕は畑で草を抜いていた。彼女の小屋の裏にあるこの小さな畑は、ホタルが日ごろから「うちの畑」と呼ん……
第2章 natsu ..1
✧ 2563年の四月、ソンクランでお祭り騒ぎのチャイヤプーム中心街に、僕とホタルは二人で出かけた。二人でお揃いのカラフルなシャツ、青地に……
第2章 natsu ..2
✧ チャイヤプームの村を出て孤歩する。コンクリートの道を行く。昼下がりの一本道を歩いている。ホタルは今頃農園にいるだろうか?……
第2章 natsu ..3
✧ 僕はコップから広がる光を見た。コップの中には小さな水面があった。フォンはそれを指して言った。 「この水面の上には何が見える?」……
第2章 natsu ..4
✧ 山について語ろう。チェンライの山村で僕は一か月生活した。一人での歩行の最後の日々だ。タークからピン川に沿って北上し二週間経ってチェン……
第2章 natsu ..5
✧ ある朝目を覚ますと雨の音が聞こえていた。暗い部屋の板の隙間から薄青い冷たい空気が入り込んでいた。雨はバナナの葉を敷き詰めた屋根の上か……
第3章 aki ..1
✧ 僕たちは数か月の間、畑で働き、ある時は町へ行って働き、ゆっくり金を貯めた。 彼女が僕と一緒に来たいと言ったのだ。僕は彼女に言……
第3章 aki ..2
✧ ホタルは薄目で川面を眺めていた。空はヘイズに霞んで尚眩しかった。物憂げな瞳に泥色の水が反射している。ナコンパノムの船着き場で船のチケ……
第3章 aki ..3
✧ 一艘の小舟が水面を滑っていた。ゆっくりと。 川は流れている、舟はゆっくりとだけ動いていた。どちらが動いているのかわからないほ……
第3章 aki ..4
✧ 十月も終わりに近いある曇天の昼さがり、四時を少し回ったところであった。赤道からの距離がある程度離れたこの場所で、過ごしやすい熱気の古……
第3章 aki ..5
✧ 朱色の袈裟を来た比丘が寺院の掃除にやってきた。枯れ葉を掃く音が淋しく響いていた。 宿を探すことも忘れて話し込んでいた僕らは、……
第3章 aki ..6
✧ 烟、烟、烟、あー、烟の他には何もない、とホタルが言った。 彼女はわざとらしく顔をしかめて、その顔を僕が覗きこむと吹き出すよう……
第3章 aki ..7
✧ オウドムサイの町は暗翳の中に沈んでいる。空と山は手で触れられそうに思えるほど近いが、人はすがすがしさなどはないと言うと思う。僕たちの……
第3章 aki ..8
✧ やはり最後僕らは歩いていた。何でもない昼下がり、珍しく晴れて、空は青くあるべきだったが焼き畑の烟が空に散り散り、太陽の光、鈍く撒き散……
第3章 aki ..9
✧ 竜巻のうなる低い音が揺さぶるのは僕の古い魂だった。そうと知った時思わず僕は意識の外でハンドルを強くひねり、スピードを上げたらしい。 ……
第3章 aki ..10
✧ 最後、僕とホタルは丘の上にいた。そこから美しい夕日を眺めていた。彼女はポケットから烟草を出し火をつけ、言った。 「さよならを言……
第4章 fuyu ..
✧ ……